この旅が終わると、次の私が始まる
冴冴サマがメガネをつくることになった。
網膜はく離の手術から丸二年、ようやくここまできたと感慨深いのは冴冴サマより私の方らしい。忘れもしない尾道から帰った後だった。 初めて大学病院へ行った日は、冴冴サマより私の方が病人の様相で痛々しかったのを忘れられない。
そんなタイミングだったから 恩返しみたいな気分で冴冴サマに付き合ってきたのだ。
シゲジはあまりいい気分ではないらしいが、私はやりかけたことはやめない。それに時々もし自分がそうだったらと考えて、やれることは気持ちよくやらせてもらおうとしてきたのだ。
メガネ屋にて度の入ったサンプルをかけた冴冴サマは面白かった。
突然わっと驚いた声を出して鏡をのぞきこんだのだ。見えすぎたらしかった。
そのあと慌てて私は思わずのけぞった。サンプルメガネの顔が 次にこちらを向いたからだ・・。
やさしいかんじの金縁のフレームは、冴冴サマをパッと若返らせた。
可哀相だったとうちゃんの黒縁の四角いメガネは もういらない。