ここは山の温泉病院 その7
外のベランダにはバーちゃんが看護士さんと植えたパンジーが咲いている。
それを見ながらお茶の時間。今日は穏やかでいい顔のバーちゃんだ。
「フジッコは26歳?もうそんなになったのかい」とバーちゃんは微笑んだ。そうして「子どもがみんなどの子も立派でよかった」といつものセリフを続けてくれた。
このごろはすっかり落ち着いていたバーちゃんだったが、私が東京へ行ってから12月1日を境に突如弱ってしまっていた。ご飯を食べなくなって横になりたがるのでさすがに担当医もびっくりしたそうだ。
事故にあったりして結局私が病院へ行ったのはきのう5日のことだった。
きのうのバーちゃんはというと、寝ている姿は大丈夫かいな?と思うほどだった。
ついに千の風かと本気で思った。けれど目を開けると両手を伸ばして体操のしぐさ、それから何を言うかと思ったら「便所!」なんちゃって、ぐうっと起きあがってきたんでワァ〜っと吃驚したのは私だった。
年寄りの明日こそ誰にもわからない。穏やかな日が最期まで続いてほしいだけだ。
<どうか自然な生き方をつらぬかせてほしい。病院には申し訳ないが医療的には最小限で、今更原因をさがしたりしないでほしい。それはバーちゃんも望んでいる。>
流れるようにこのセリフ、またまた念のため先生に言ってみた。
アイザワホスピタルの「希望はなんですか?」を思い出したからだ。